2170.友達

僕がハタチくらいの頃、仲のいい友達がいた。
恥ずかしいくらい簡素だがこう言うしか説明のしようがない。
仲のいい友達だった。
当時の僕は自分の作品作りに熱中していた。
でも熱中しているだけではうまくいかなかった。
そんな時は友達に相談した。
友達と話していると、いろいろなアイデアが湧いてきた。
毎日楽しかった。
毎日、何かを二人で生み出しているように思えて充実していた。

ある時友達は「もう相談には乗れない」と言った。
一人で作りたいのか尋ねると
「そう思ってくれてもいい。君も一人で作ったほうがいい」と言った。
僕は子供だった。
友達を罵った。
お前より僕のほうが才能がある、とまで言い放った。
突きつけられる事実に誰より怯えていたのは僕だったのに。
それっきり友達は僕の前に姿を現さなくなった。

それから二ヶ月後に僕は友達に会った。
すでに僕は負けを認めていた。
この二ヶ月の間、僕一人では何も作れなかった。
友達の消息を探して大学病院にたどり着いた。
案内された病室で
痩せた手のひらを僕に見せて友達は言った。
「やあ。
嫌われたまま 逝きたかったのに残念だ」
僕はたくさん泣いた。
きっと彼の記憶の僕は泣いた僕だろう。

今でも不意に涙が出る。

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# by trash-s | 2016-11-07 23:39 | おとな未満

2169.新しい朝を待っていたのかもしれない

テレビからはRPGの音楽が流れ続けていた。
短いメロディは覚えやすく、眠気を誘った。
僕のパーティは平原に佇んだまま僕の操作を待っていた。
時計は午前四時を回っている。

テレビが全部放送を終えてしまって
僕はファミコンを始めたのだった。
経験値稼ぎは退屈ですぐに眠くなってしまう。
物語はすでに一度終えてしまっていた。
それでもレベル上げをしている理由は僕にもわからない。

ファミコンの電源を落とし、テレビも消してしまうと静寂が部屋を満たす。
もう誰も起きていないのだ。
都心では深夜も人が働いていると聞くが、
ここらは眠りに帰る町だ。
もう二時間もしないうちに通勤に出る人たちが目をさます。

昨日と同じ朝が来た。
明日も今日と同じ朝だろうか。
もしかして明日にはレベル上げが終って
新しい朝が来るのかもしれない。

それともすべてが終わっても
変わらない朝が。

…………………

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# by trash-s | 2016-11-05 22:15 | おとな未満

2168.流れ着く砂浜

またこの砂浜に流れ着いてしまった。
見覚えのあるヤシの実は朽ちることなくそこにある。
僕を笑っているのか?
変に人の顔に見える実のくぼみが笑っているように見える。
静かな白い浜だった。
ここから何度船を漕ぎ出しただろうか。

いつだって遠くまで行ったように思っていた。
穏やかな海だったこともあれば
荒れ狂っていたこともある。
その度に一生懸命進もうとしていた。
努力もしたつもりだ。
この浜にたったころの僕は頭も体も貧相だったが、
今は何をしたらいいかは体も心もすぐにわかっている。

どこにも行けないんじゃないかという不安と
ここで静かに過ごすのも悪くないという逃げのような気持ちが
いつだってせめぎあっている。
だが何度も戻されてくる。
ここは一体なんだろうな。
さざなみが聞こえる。
ヤシの実が笑ってる。
ここは
僕の
変わらない場所だ。

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# by trash-s | 2016-11-04 15:26 | 夢日記

2167.塗りつぶされてしまった

子供の頃よく通った道をたどり、景色の見透せる土手の中腹に立つ。
夏の盛りには海のようだった草むらも
冬の足音が大きくなる今頃には元気なく風に揺れている。
風が頬を撫でた時、それは子供の頃違っていたように思った。
僕の頬には額から流れ落ちる汗が一筋流れ、
風はその汗を乾かした、そんな記憶だ。
今の僕はもう汗をかいて走るようなことはない。
空調のいまいち効かないオフィスみたいな狭い部屋で
嫌な汗をかくことばかりの日々。
風が乾かすことのない汗。

そうか、東京行くのか。
立派だな、立派な会社に行くんだな。

文房具をよく買いに行った文具店で
そう言った友達のお父さん。
文具店はもうない。
友達もお父さんもどこに行ったかもうわからない。

塗りつぶされてしまった。
僕の思い出したいことは、みんな塗りつぶされてしまった。
もっとたくさんの思い出があったはずなのに、
ここに来ればなにか思い出すはずだったのに、
僕の心が小さくしぼんでしまったのか、
それとも人とは元々そういうものなのか、
たくさんの雑多なことに全部塗りつぶされてしまった。


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# by trash-s | 2016-11-04 00:13 |

2166.8ヶ月ぶり

8ヶ月ぶりに帰ってきたアパートは、無用心にも窓の鍵が開けっ放しだった。
見るからに貧乏そうな風体のアパートには空き巣も入らなかったらしい。
もっとも僕の部屋は、外から覗いてみても大して物もなく、
3分もあれば全ての引き出しを開けられるくらいのもので、
空き巣としても、時間の無駄と思っただけかもしれない。

8月の頭から、写真を撮るために島に渡っていた。
その頃には彼女もここに住んでいたが、今はもういない。
去年の10月頃に出ていくというメールを受け取った。
窓が開いていたのはもしかして彼女のせいかもしれないが、
そのことを責められるほど僕はいい同居人ではない。

僕は荷物を置き、畳の上に座った。
その畳の上にひとひらの桜の花びらが落ちているのが目についた。
どこからか迷い込んできたのだろうか。
桜の頃はもう過ぎている。
後は青々とした緑の季節がやってくる。
ふとさっき想像した空き巣のことを考える。
誰かが桜の頃に窓を開けたのだろうか。
だとしたらたいそうな証拠品になるな。
そう思っていたら、後ろのドアが開いた。

「帰ってきてたの?連絡すればいいのに」

懐かしい声。
彼女が犯人か。



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# by trash-s | 2016-04-18 01:47 |