1851.地雷

不意にこみあげる、後悔の残滓は
僕にも後悔というものがあったことを思いださせる。
形はあるが思いは残っていない。
全てを失っては、一体どこに後悔したらいいのかさえ分からない。
ああ、とため息をついて見上げる空は今にも雨が降りそう。
後悔するフリして歩く僕に、行くべき未来は見えない。

歩いていればどこかに辿り着くだろうと高をくくっていた旅人は
後戻りのできない土地に入り、
戻ることもできず、また眼前に広がる地雷地帯に足を踏み入れることもできず、
ただただ立ち尽くして空を見上げる。
蜘蛛の糸の一本も垂れてきやしない行き止まりのこの土地に、
ひとり、またひとりと力なきうなだれた同胞が集まってくる。
どいつも誰かが犠牲になって地雷を踏んでくれるのを待っている。
焼けこげた屍の道の先に、俺一人のためのユートピアが待っていると夢見ている。

調子のいい演説をかましている男は、
人を集めて地雷を取り除こうとしている。
お前は右手、お前は左足、そっちのお前は頭。
みんなどこか失わないとこの牢獄からは出られないと叫ぶ。
当の本人は何も失わず逃げられると思っている。
男は片手片足の者たちに、地雷の埋まる草むらに放り込まれて踊るように飛んだ。

黙って座り込む僕は臆病者だ。
他人を騙すこともできない、未来を信じて先に進むこともできない。
後悔などしない、振り返らないと格好付けながら、うつむいて地面を見てばかり。
死ぬ気になればどうにかなる、頭の上からそんな神様の声が聞こえる。
安全な所にいる奴はいいよ。
格好つけるだけの言葉なんかいくらでも吐けるだろうよ。
口数の多い奴ほど苦境に立ってみれば弱音ばかり。
その口はただ思ったことを垂れ流すだけの無能な拡声器。

後悔なんてしない。
文句だって言わない。
だったら今決めたこともすぐに過去のこと、現在なんてすぐに過去になる。
とどまっていると思っていた今は、すでに過去の場所。
振り返らないなんて言って、すぐ後ろの自分の付けた足跡を
うつむいて見ていただけだったことに僕は気が付いた。
眼前に広がる地雷地帯。
ここより一歩先が現在で未来だ。
もう一歩後ろだって見ている暇はない。
正しくたって間違ってたって歩くしかない。
生きるのだって死ぬのだって行ってみるしかない。

草原には百万の地雷。
見えない未来に進むのに、地雷の有る無しはどのみち関係ない。

by trash-s | 2012-04-14 21:45 | 形而上のセカイ