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1853.頭からバケツ一杯のコールタール

きっと彼女の目には醜く映っていたことだろう。
夢という硝子細工を宝石のように見せて
「ね、これって宝石だよね」と同意を求めた。
私はその硝子細工が人に認められるとあっさりとそれを持って
人がたくさんいるところに出て行った。

その日私はとある賞をもらったのだった。

その母である私は作品という娘を誰彼となく抱かせ、
代わりに金品と賞賛をもらい、それを当然のことと思っていた。
客が文句を付ければ娘をはたき、技を仕込み、上手く立ち回れるようにした。
当たり前のこと、誰でもやってること、そう言い聞かせ。
ある時彼女が
「ねぇお母さん、私はこんなふうにしか愛してもらえないのかな?」
と痩せた肩を落として言うまで、
私は私の力の無さを自分で知ることがなかった。

彼女なら、一緒に硝子細工を見て笑った彼女なら、分かっていたのかもしれない。
醜い私を。
手垢にまみれ、薄汚れ、黒くなって歯も落ちていった私を。
頑張って骨を折り、身を削り、血を吐いても娘を守ることができない私を。

逃げ出してやってきたのは古いアパート。
家賃は払ったことの無い、古い友人のアパート。
汚い私が踏み入れていいのかと思うほど、そこは清潔だった。
そして暖かだった。

by trash-s | 2012-04-17 19:45 |