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1856.動いている、暖かい、生きている

たったひとりで生まれてきたわけじゃなし。
僕だって人の子だ。
実家の両親は健在だし、始めたばかりの仕事もあるし。
そんな風に思っていたが、明かりの無い部屋に戻るのは
気持ちとして落ち込んだ。
バラエティ番組は笑えない、口に運ぶ白米は炊きたてでも冷たい。
まだ春も始まったばかり、それなのに世界は灰色
というより色を失い始めてどんどん灰色に変わっていくような感じ。
僕は自分がこんなに弱いのだと初めて知った。
食べ終わった食器を片付けて、シンクの前に立ち、ぼーっと洗剤を泡立てる。
モーター音が聞こえた。
僕の腰よりやや低い冷蔵庫。
じっと耳をすますと、モーター音と振動。
そばに寄るとすこし暖かかった。
そういえば昔読んだ小説に、そんなシーンがあった気がする。
なんだっけ?
冷蔵庫が暖かい、みたいなことを言う女の子がいたような気がする。
もう覚えてないな、そう思いながら僕は冷蔵庫に耳を当てた。
脳が溶けて、冷蔵庫に当てた僕の頭の左側が一体化したような融合感。
安心した。
動いている、暖かい。
ただそれだけで生きているとは言えないものに僕は体を預けていた。

by trash-s | 2012-04-23 10:32 | ある日の出来事