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1863.The King of Terrors

「生きるのは怖いことだな。
生きているのは嬉しいが、死ぬのは怖い。
死ぬのはいつ来るか分からないからね。
だったら生きるのは怖いことだよ。」
僕がこう言うとリッチーは、飲んでたコーヒーを机に置いた。
リッチーが腕組みして考える。
出てきた答えはこうだ。
「考えてもわからないことを考えて悩むのは
20歳までにしておきなさい。」
………それは僕が幼いってこと?

妻の親戚の葬儀に出た時に、誰も彼もが涙を流していた。
親しい人間が死ぬのは悲しいことだ。
それは恐ろしく、どこが間違っていたのか考えてしまう。
(たばこ、やめられなかったものね。)
(病院嫌いだったから、検査にも行きたがらなくてね。)
(でもそういう年齢でもあるのよ。)
口々に述べられる理由や原因には根拠はない。
僕は溢れる涙に目を押さえ続ける妻の横に座り考える。
真正面に真新しい棺。
(お尋ねします。
あなたは、死ぬ時、怖かったですか?)

「死よりも怖いものがあるよ。」
とリッチーが言った。
それは何?
「恐怖心だよ。
それは全てを凍らせる。
人間の動き全てを止める。
体も心も動かなくなる。
本当に怖いのは死ぬことなんかじゃないよ。
重病の先にあるのが、死であっても、肉体の障害であっても怖いだろう?
それだけで人の心は柔軟さを失い、活動が停止する。
肝硬変みたいなものさ。
世の中が受け入れがたく感じるほどの状態に陥る。
生きている人間が最も警戒するべき相手は恐怖だ。」

by trash-s | 2012-04-30 23:35 | リッチー