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1872.深海

その日、違和感を感じたのは朝起きてすぐのことだった。
相変わらず、この世界に音はない。
時折吹く風が、耳元を通り過ぎる音だけだ。
リコの声がしなかった。
彼女の方を見るとまだ眠っている。
しかしその様子に不安を抱き、声をかける。
リコ。
返事がない。
何度呼んでもリコは起きなかった。
揺さぶってみる。
呼吸はある。
ただ目覚めない。
恐ろしかったが、体が暖かく脈を打ち、
きちんと生きていることにひどく安心した。

リコの状態に、これといった心当たりはなかった。
心配だったので、今日は一日リコのそばにいた。
寝言も言わず、寝返りも打たなかった。
食べ物の匂いが辺りに漂っても、ぴくりとも動かない。
ただ、リコの手に触れ、その小さな掌に触れると、
僕の人差し指を握り返してきた。
僕を安心させようとしているのだろうか。
大丈夫、僕はそばにいる。

by trash-s | 2012-05-10 12:23 | 星の胞子