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1891.それを持って境界は越えられない

居酒屋で頼む酒が、ビールから日本酒に変わり、
早熟な同級生たちが結婚の二文字に浮き足立つ年頃、
僕と晴くんは相変わらず学生時代の延長のような生活をしていた。
大学生の時に覚えたビールと枝豆のコンビ、
「これ以外無いっしょ。」とまるで永遠の愛を誓った二人。
何度目かの晴くんの失恋の傷が癒え、そろそろ傷つかなくなっていた。
僕も持てないほどでもなかったが、縁も薄かった。
晴くんは、相手に深く愛され、深く傷つけられることが多かった。
互いに人の心をつかめない僕らは
その本当の所に気が付かないようにしていただけなのかもしれない。
今は勘弁してくれよ、という甘えだったのかもしれない。

「最初に上手くやれなかったんだよ。」
と晴くんが言った。
何の話?と僕は聞き返す。
セックスのことだよ、と晴くんはややろれつの回らない口調で言った。
そこはもう店の外だったから、僕は道の端に寄るように晴くんをすこし引っ張った。
「…君の知らない人だけどな。」
じゃあ、話にしか知らない程度の相手か。
「最初がダメだと後もダメだよ。
そのことだけじゃあない。
物事全てだよ。
もうずっと思ってるんだよ。
もうずっと、いろんなことを僕が上手くできないって。
高校時代に置いてきてしまった。
真っ白だったはずのあの時代に始まりを置いてきてしまった。
もう思いだせない。」
晴くんが何について言ってるのか全然分からない。
でも僕らは何かをあの十代の時期に置いてきてしまったのは分かる。
死人が金を持ってあの世に行けないように僕らも
それを持って二十代に行くことはできなかった。

by trash-s | 2012-05-30 00:44 | ハルくん