1896.縁でしかつながれない彼らや僕らの行為

「…父の日って…どうした?」
美琴ちゃんはノートから顔を上げずに言った。
僕は、診察室の丸い椅子に座ってライトノベルなんかを読みふけっている。
椅子をふぃ、と回転させて美琴ちゃんの方に向く。
どうしたって、何を?
「…贈り物、とかよ。」
別に何も。
ウチはあんまりそういう習慣なかったんだ。
奥さんとこはあったから、今はお酒なんか送ってるけど、
僕が美琴ちゃんの歳には何にもしてなかった。
しばし沈黙。
ウチほどではないが、美琴ちゃんの家はあまり家庭仲が良くないと
リッチーから聞いてる。
聞いてるだけだ。
他人の、本当のことなんか、絶対にわからない。
だから、美琴ちゃんは自分のお父さんに何かしたいのかもしれないし、
それとも…。
「…リッチーに、何かあげようかと思って。」
美琴ちゃんは言った。
リッチーがお父さんか。
複雑な関係だな。
どうあっても他人だし、義務も無いし。
一回授業参観行く、って言ってたときあったな。
あれは行ったんだったかな?
たしか一回担任教師に断られたことあったな。
やっぱり他人だしな。
でもアイツ、校門のところで美琴ちゃん待ってたんだよな。
不審者に間違われないようにって、僕と一緒に車で待機して。
考えてみりゃ僕だってお父さんだと思ってもらってもいいんだけどな。
まぁしょうがないか。
それは本当の気持ちはちょっと違う所にある感情だしな。
それが恋のようなものだと美琴ちゃんが気が付くのはずっと先なんだろうしな。
僕の頭の中にこんな考えがざーっと横切って消えた。

なんかさ、仰々しくするとアイツも緊張するしさ、
おいしいものでも作ってあげれば?
「そんなの、時々やってるよ。」
美琴ちゃんはやっとこっちを向いて口を尖らせた。
じゃさ、僕がちょっと出資してあげるからいい材料買って
それでおもてなしすればいいじゃない?
「…ほんと?じゃあそれでもいい…。」
美琴ちゃんはすこし笑ってた。

by trash-s | 2012-06-04 23:37 | 美琴ちゃん