1920.赤色も青色も

デートの約束はいつも紫陽花の前だった。
春から始まった彼女の交際は、梅雨時期を迎えて、
紫陽花のように花開く頃だった。
雨の日も真新しい傘を持って彼を待った。

向こうのベンチには一人の男が座っていた。
大学生。
春になったばかり。
日曜日が晴れの日はよくそこで本を読んでいた。
時折彼女の顔を見る。
あの様子ではきっと彼女に恋をしている。
横恋慕と言うやつだ。
彼女に気づかれないよう、時々本で顔を隠す。

やがて雨が続き、彼女は待ちぼうけをすることになる。
このチャンスにベンチの若者はいない。
なぜなら、雨が降っているから。
雨の日に外で読書をしているのは不審に他ならない。
彼は来ない。
そして彼女の彼も来ない。

紫陽花の前に彼女は来なくなった。
春の終わり、夏の訪れ。
大学生の彼は、ベンチを素通りするようになった。
手には携帯電話を持ち、何やら楽しそうに喋っている。

私はというと、季節を過ぎ、盛りをだいぶ前に終え、くたびれている。
また来年、誰かと出会う。
私は、紫陽花。
今年は、二人の短い物語を見つめた。

by trash-s | 2012-06-27 00:50 | ある日の出来事