1925.全力で無視だ

それでも何かをしてるんだよ。
と僕は言った。
原稿を上げてこない同級生に僕はイライラしていた。
頼んで、やると言ったのは彼女だったが、
彼女の事情を考慮に入れずに頼んだのは確かだったし、
彼女がそういう事情を僕に話す筋合いはない。
最初のセリフは僕の話を聞いたヒナタさんが
「何もしてないんでしょ、彼女。
きっと家帰ってすぐにタイマーをセットして
明日の朝スイッチが入るようにしてるんでしょ。」
と言ったからだった。

それはヒナタさんの皮肉なのだが、
人は、何もせずに生きることはない。
眠ることはよほどの条件でないとせいぜい10時間くらいだろう。
残りの14時間は必ず何かする。
だから、何かしてるんだよ。

「君がどう思おうとも勝手だけどね、
そいつは君のために動いてない。
いいかい、自分のために動いてない人間は
どこまで行っても赤の他人だし、
いない人間なんだ。
これは世界の否定なんかじゃない。
無視は世界の暴力なんだ。
彼女には、君が彼女を一人の人間として見ていることに気づいてない。
たぶん気が付かないだろうね。
君は今彼女の暴力にさらされている。
君は、彼女の状態を考える必要は全くない。
全力で無視しなよ。
もう一度言う、全力で無視だ。」

結局僕は彼女抜きで冊子を作った。
彼女にも冊子は渡したが、自分が原稿を頼まれていたことは
まったく覚えていなかった。
ヒナタさんの言うことは正しくて、
僕は全力で無視しなければならなかった。

by trash-s | 2012-07-01 00:45 | ヒナタさん