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1966.狂気じみた嘘をついた彼の話

「僕は知ってました。
K島くんがS木くんをいじめていたこと。
クラスの皆が知っていたと思います。
K島くんがいじめていたのは、S木くんだけじゃありません。」
彼はクラスを見回してひとりひとり指をさす。
さされた生徒は、首を一層うなだれた。

S木くんがK島くんを殺した。
いじめられっ子がいじめっ子を殺した。
引き出しのハサミを握りしめ、K島くんの目をえぐり出した。
クラス中に悲鳴が上がり、S木くんはそのままハサミを奥までねじ込んだ。
そして一人のいじめっ子が絶命した。
事件の後、担任はクラス全員に問いただした。
ひとりが手を上げて発言を希望したが、担任は無視した。
彼は学業も芳しくなく、嘘つきだと周囲から思われていた。
生徒と先生両方から。

「ハサミを渡したのは僕です。
いつ、どの瞬間を狙ったら、確実に仕留められるか
S木くんに教えたのも僕です。
S木くん、おとなしいでしょう?
僕もあんなに上手くやるなんて思ってみなかったんで
内心ヒャッハーでした。」
感情も無く、彼は語った。
「よせ!」
担任は教壇を叩いて怒鳴った。
「嘘はやめるんだ。」
「分かってるんだ。」
「先生が知りたいのはそんなことじゃないんだ。」
担任の言葉に僕は疑問を抱く。
先生が知りたいのは?
先生が知りたいのは『何もなかった』という証拠でしょ。
クラスを公開処刑にして皆を黙らせる。
お前たちも辛かったな、だからもうこのことは忘れるんだ、という強制。

しかし、彼が、断罪した。
教師が用意したこの場所で事実を裁いた。
それは偽証に近い何かだったかもしれないが、
蚊帳の外にいたつもりの教師を含めた断罪だ。
S木くんは死んだ。
すべてを丸投げにして死んだ。
S木くんは、証明すべき説明を全て放棄して死んでしまった。
それを全部拾い上げて、ねつ造してまで学校の全ての人間に
突きつけようとした『うそつき』。

僕は彼のことを忘れない。
あんな頭のおかしい奴でもいないと、
世の中回らないことだってあるんだって
初めて教えてくれた人間。

by trash-s | 2012-08-11 23:50 | ある日の出来事