2076.生存音楽

たしか
クラシック音楽の何かだったよな。

ぼんやりと炊飯器の前で考えていた。
初夏、だったと思う。
気温が少し暑くなってきて、僕は部屋の窓を開けた。
外の空気はまだ涼しい。
風と共に、どこかの家から食器を用意する音が聞こえて来た。
ビルのひしめくこの界隈では、建物と建物の間が
人も通れないほど狭くて、窓を開ければ、
階上階下どこかの生活音が響き聞こえて来る。
楽しそうに笑う声、これから夕飯か。
追う様に、何かの電子音。
音楽が鳴っている。
僕はそれを知っていた。
電気屋で見た炊飯器のご飯が炊けた時に鳴る音楽だ。
有名な曲だが、クラシックの造詣どころか音楽を聴かない僕は
それがなんてタイトルか知らない。

「どう?使えそう?」
リコが僕に尋ねた。
僕は、電気があれば大丈夫なんじゃないかな、
メイドインジャパンはそう簡単に壊れないよ、と答えた。
リコが笑って炊飯器のラベルを指差した。

『Made in Taiwan』

あら?
僕はそう言って頭をかいた。
今日はレトルトカレーを倉庫に見つけた。
今日は僕とリコしかいない世界で
炊飯器は音楽を鳴らすだろう。

by trash-s | 2013-07-21 15:41 | 星の胞子