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2080.雨のように消えた記憶

小学校卒業とともに離れた土地は、シンプルに懐かしかった。
降り立った駅はどこも変わらず、すこし拍子抜けした。
今日はとても暑かった。
空き地の草いきれが道に溢れて甘い空気に満ちていた。
日差しは真上から差し込み、僕の影は足下に集まっていた。

僕は夢を見ているのかと思った。
僕が立ち去ったそのままに、場所は残っていた。
住んでいた家も、遊んだ公園も、通い続けた小学校も、
そのままだ。

時は、短くなかったはずだ。
僕とこの場所を隔てた時間は決して短くはなかった。
僕はこの炎天の下、駆け出していた。
奇妙な世界の中で、僕は何か変わっている場所を見つけたかった。
そうでないと……
僕がここに来た意味がなくなってしまう。
僕は、時の流れを確認するためにここに来たのだ。

「あれあんた」
突然声をかけられて振り向くと知らない男が立っている。
すぐそばの工務店から出てきた男だ。
確かそこは昔クラスが一緒だった男の子の…。

ごめん、なんか名前覚えてないけど、小学校の時遊んだよね?
「俺も覚えてない、すまん。何してるんだ?」
ちょっと近くに来たものだから懐かしくて歩いてみた。
そっちはずっとここに?
「ああ、ここはずっと俺んちだからな」

知らない男がそこに立っていた。
おぼろげな記憶はあるものの、もう復元出来ないランドセル姿。
僕は確かに歳を取った。
目の前の彼を見ればわかる。
僕がここにいたのは確かに過去なのだ。

by trash-s | 2013-08-08 01:50 |