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2091.彼はまだ苦い果実の味を知らない

日が落ちるのが早くなった。
校庭が薄暗くなっても体育館の明かりは煌々として辺りを照らしている。
僕は僕の好きな子がこの中にいるんだなぁと暗がりの中にぽつんと立っていた。
彼女はバスケ部で、僕は文芸部。
趣味の隔たりは遠く、遠いからこそ惹かれた。
遠いからこそ、手が届かない事に身悶えし、気持ちは諦めている。
不思議な事に恋する相手は自分では選べないのだと悟った。

恋は暴力的に僕を襲った。

体育館の扉がガラガラと開いて、薄暗い渡り廊下に明かりが落ちた。
僕はその中から出てきた少女と目が合う。
「あれ〜何してんの〜?」
抜けるような明るい声が僕の脳みそを活性化させる。

部活だよ。

僕は短く答えた。
「こんなに遅くまで?」
部室で居眠りしてたんだ。他の部員に先に帰られてね。
「ははは、らしいね〜。じゃあね。」
ああ。
彼女とすれ違う。後と彼女のチームメイトたちが続く。
彼女らは僕の知らないクラスや学年の人たちだ。

やり取りはこれだけ。
それだけでも僕は今日の夜を機嫌良く過ごせた。
その想いには甘い香りがしているような気がした。
僕は僕が甘い匂いを発していないか、すごく気になった。

by trash-s | 2013-12-19 19:30 | おとな未満