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2115.種類の違う靴の右足と左足

彼は繰り返す。
同じ間違いを、私の教えたことも全て忘れて。
私のことを覚えていないのは、ショックだったけれど
たいしたことじゃないと思っていた。
そもそも誰でも最初は互いのことを知らないのだ。
関係は積み重ねて作る。
ただ二回目だってだけだ。

彼には一回目だけど私には二回目だった。
既視感が付きまとい、私を苛立たせる。
同じことを繰り返す自分が嫌だった。
私も私のことを忘れてしまいたかった。

ある日シチューを作った。
彼が昔から好きな味の、私には手慣れたメニューだった。
彼がおいしいね、と口にしたとき、私の目から涙があふれた。
それはお前が作ったレシピだ。
それじゃないと食べないっていうから私がお前から教わったメニューだ。
ぶん殴ってやろうかと思ったが「こんなの初めて食べたよ」と言われて踏みとどまった。
繰り返しじゃなかった。
私は彼の知らない彼のことをこれから教えることができる。
やっと「自分を失った男」を受け入れることができた気がした。

by trash-s | 2016-01-23 00:59 | おとな未満