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2167.塗りつぶされてしまった

子供の頃よく通った道をたどり、景色の見透せる土手の中腹に立つ。
夏の盛りには海のようだった草むらも
冬の足音が大きくなる今頃には元気なく風に揺れている。
風が頬を撫でた時、それは子供の頃違っていたように思った。
僕の頬には額から流れ落ちる汗が一筋流れ、
風はその汗を乾かした、そんな記憶だ。
今の僕はもう汗をかいて走るようなことはない。
空調のいまいち効かないオフィスみたいな狭い部屋で
嫌な汗をかくことばかりの日々。
風が乾かすことのない汗。

そうか、東京行くのか。
立派だな、立派な会社に行くんだな。

文房具をよく買いに行った文具店で
そう言った友達のお父さん。
文具店はもうない。
友達もお父さんもどこに行ったかもうわからない。

塗りつぶされてしまった。
僕の思い出したいことは、みんな塗りつぶされてしまった。
もっとたくさんの思い出があったはずなのに、
ここに来ればなにか思い出すはずだったのに、
僕の心が小さくしぼんでしまったのか、
それとも人とは元々そういうものなのか、
たくさんの雑多なことに全部塗りつぶされてしまった。


by trash-s | 2016-11-04 00:13 |